9四歩
[今日の雑学 08.22]
昭和12年、京都・南禅寺。棋士坂田三吉は木村義雄に対していた。後手番。相手は実力日本一と称される男。坂田は第一手で奇想天外の手を指す。9四歩。「世間もたまげたが私もたまげた」と局後木村に言わしめた手(朝日8月21日)。
はじめから勝負を捨てたかのようなこの大胆な手は、しかし肺結核に侵されデカダンな毎日を送っていた一人の若者に希望を与えている。作家、織田作之助。当時23歳の織田は、新聞で坂田の9四歩を見て「やったぞ」と叫んだという。生きよう、と勇気づけられたと。
現在の将棋界は定跡研究が進んでいる。コンピュータを駆使して過去の対戦を分析し、棋譜を研究する。でも、と思う。勝負にとっていちばんたいせつなのは9四歩の精神だ。チェスの世界チャンピオンに勝ったスーパーコンピュータ、ディープ・ブルーには決して指すことのできない、人間だけが指せる手。
それは人に勇気を与えてくれるし、生き方を教えてくれる。あなたは毎日、9四歩を指していますか、と。
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